従業員が向いている方向を、正しく把握する。

「従業員の仲は良いのに、ひとつの方向を向いていない」という問題は、多くの企業で生じています。

Introduction

企業の現状を調査する

従業員の行動や組織の現状を具体的に知ることで、経営理念や自社ブランド、ビジョンについて従業員たちがどのように捉えているか、理解しているかを事前に調べます。現時点におけるブランドの浸透度を分析・評価したうえで、インターナルブランディングに向けた施策を決めるのです。そこには、ブランドとして顧客や社会に約束するべき姿と実情のギャップがあります。調べる方法は、アンケートやグループインタビューでのヒアリングなどが用いられます。ポイントは、調査から分析までのプロセス自体に従業員を幅広く巻き込み、透明性の高いものとすること。現状認識のベースとなる事実情報への信頼性を高めることです。
現状を正しく把握するためには、従業員が当事者意識を持ち、本気で現場の状況を提供しようという気持ちになるようなやり方が必要です。たとえば、定量調査のサーベイやアンケートの場合は、一方的な情報収集という感覚を与えることがあるため、中間報告を設けること。一方、グループインタビューは、このプロセスそのものが従業員を巻き込むものであるため、回答者の個別意見について匿名性を担保するなど、回答する側の不安感を払拭することに留意しましょう。経営理念や自社ブランド、ビジョンについて従業員がどのように捉えているか、理解しているかを導き出したあとは、現時点におけるブランド浸透度を分析・評価したうえで、インターナルブランディングに向けた施策を決定します。

アンケートの実施

従業員の意識や行動が、どの程度ブランドや理念を体現しているかを調べるために、アンケートを利用します。実施する際には「どんな目的で」「結果をどう利用するのか」「その後どのような流れになるのか」を説明する、情報セキュリティの確実性を伝えるなど、従業員の警戒心や不安感、不信感を払拭するコミュニケーションを行い、正直な回答を多く得られるようにします。同じ従業員でも年齢や職種、勤務する場所によって大きく回答が変わることもあります。このような違いを正確に把握することが理念の見直しや理念を正しく浸透させる施策づくりのヒントになります。匿名でアンケートを行う場合も、年代や性別、所属部門は明記してもらうようにしましょう。それぞれの立場にあった施策を打ち出す際に必要な情報となります。
従業員に対する主なアンケート項目には、以下のようなものがあります。

●従業員に対する主なアンケート項目

【理念浸透度】
・企業の理念やビジョン・ミッションを知っているか
・その理念を行動に移しているか
・理念に共感できているか など

【従業員満足度】
・ロイヤリティ
・企業文化
・個人の仕事観 など

【従業員プロフィール】
・年代
・所属
・職種 など

アンケートの結果から、多くの従業員の意識の違いをタイプ別に知ることができます。
それぞれのタイプに合った施策を考えましょう。

●タイプ別に見る意識の違い

A:リーダータイプ:共感して行動する
理念に共感した上、行動にもうつせるタイプ。ロールモデルとして他の従業員へ考え方や行動を発信したり、インターナルブランディング活動のアンバサダーを務めてもらうことも効果的です。

B:フォロワータイプ:共感はあるが行動はない
理念に共感しはしているが、どのように体現すれば良いか理解できていないタイプ。上司や先輩、同僚など近くにいる人の発言や行動に影響を受けることがあります。

C:インディペンデントタイプ:独自の考えのもと行動
理念は理解していないが、自分の考えのもと「良い」と思ったことに行動しているタイプ。表彰や報酬などでその行動力を的確に評価することで理念への理解が進みます。

D:インアクティブタイプ:興味がない
そもそも企業理念を「他人ごと」と捉えるタイプです。ワークショップや研修、動画や社内報などから理念について伝えることで理解を促すことが大切です。

経営層へのインタビュー

経営層・マネージャークラスの従業員が企業の未来像をどのように考えているか、また、どのようなかたちで理念の浸透を描いているのか、一方で現実の状況をどう見ているのか、などをヒアリングします。従業員アンケートの結果と合わせ「理想と現実とのギャップ」を浮き彫りにするプロセスです。

グループインタビュー

グループでヒアリングやインタビューを行う場合、グルーピングの方法は同じ職種、年代、役職など、共通の属性を持つ人を集める場合と、異なる人を横断的に集める方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、優先順位や目的などをしっかりと把握した上で実施しましょう。

●グルーピングの方法によるメリット・デメリット

【同じ属性でグルーピングした場合】
メリット
・グループ内で共有されている情報が多いため、個人的な意図で歪曲された意見がでにくい。よく知っている間柄の人が同席するため、活発な意見がでやすい。
・価値観の近い人が多いため、ひとつの意見を深堀しやすい。
デメリット
・業務上互いに関連していることが多いため、率直な本音がいいづらい。
・価値観の近い人が多いため、意見や議論に多様性や広がりが不足する。

【異なる属性でグルーピングした場合】
メリット
・同席する他の存在を意識せず、本音をいいやすい。
・それぞれが所属する視点よりも会社全体の視点での議論をしやすい。
デメリット
・同席する人の牽制が効かないため、恣意的な意見がでやすい。

危機感と期待感の醸成

現状認識は、インターナルブランディングのスタートラインです。自社の現状とあるべき姿とのギャップを明らかにし、今後の施策を考えていきます。その際まず「もしもそのまま、ギャップに対して何も行動をとらずにいたときに、自社はどうなるか」をプロジェクトメンバーに考えてもらいます。たとえば「言動が不一致の会社」「人がすぐに辞める会社」「自社の製品やサービスに自信が持てない会社」など、理想とのギャップを埋めないままでいたときに起こりうる「なりたくない状況」を具体的に想像することで、危機感を実感してもらうのです。
次に「こうなりたい」と思う明るい未来を考えます。「社会から求められる会社」「人がつながり、安心できる会社」「働くことに誇りが持てる会社」など、企業が「あるべき姿」になったとき、どのような良いことが待っているかを想像・実感し、行動への納得感を醸成することを目標にしましょう。危機感を感じること、そしてネガティブシナリオの対極にある「この会社の一員でよかったと思える」未来、双方をいかにリアルに頭に描けるかは、インターナルブランディング成功の重要なポイントです。

●事例)トヨタ自動車

従業員が、会社・社会生活において行動する際に規範とする、基本的な心構えと具体的な留意点をまとめた「トヨタ行動指針」を策定。この行動指針は、先にまとめられた「トヨタの基本理念」を従業員で理解・共有しつくられた。共有すべき価値観や手法をまとめた「トヨタウェイ」とともに、従業員がトヨタのあるべき姿を体現するための羅針盤の役割を果たしている。

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