勝ち抜くための、価値を築く。

競争優位性の構築に向けた基本戦略と、新規参入の脅威への競争回避の戦略を学びます。

Introduction

マイケル・ポーターの「3つの基本戦略」

米国の経済学者マイケル・ポーターは、競争戦略の類型として、以下に記載する3つの基本戦略があると唱えています。また、3つの基本戦略のうち、少なくとも1つの分野において卓越した戦略を構築することが、競争優位に立つために必要不可欠であるとしています。企業は自社事業をどのマーケットで展開するか、どのような競争優位性を構築するかを綿密に計画しなければなりません。

基本戦略1:コスト・リーダーシップ戦略

コストリーダーシップ戦略とは、事業の経済的コスト(原材料費、生産費、流通費、販売費、管理費など)を抑えることで価格優位性を構築し、市場シェアの獲得を図る戦略です。同業界内で複数の企業がコスト・リーダーシップ戦略を追求すると、業界全体が過度の価格競争に陥る危険性を孕んでいる一方、各企業はシェアの獲得を最優先事項として位置付けるため、標準化による効率化や大量生産による製造単価の低減が課題となってきます。なお、価格優位性の主な源泉となる要因には、以下2点が挙げられます。

①規模の経済

規模の経済とは、生産規模の拡大に伴い、いち製品にかかる平均費用が低下し、利益率が向上する現象です。スケールメリットを活かした企業活動を指しています。特に設備投資や研究開発に莫大な固定費用がかかる産業では、生産規模を拡大するほど、いち製品あたりの生産コストが低下し、利益率改善に大きな成果を上げることができます。

②経験曲線効果

経験曲線効果とは、製品の累積生産量が増加していくことで、いち製品あたりのコストが一定の割合で低下していく「経験則による効果」です。一般に、累計生産数が2倍になると、いち製品あたりの生産コストが10%〜30%程度減少すると言われています。特に属人的な作業が多く含まれる業務では、経験曲線効果が大きくなる傾向がありますが、これは企業や組織が、特定の課題について経験を蓄積することで、より生産性が向上することが要因となっています。

基本戦略2:差別化戦略

差別化戦略とは、顧客に対して競合他社と異なる価値を提供し、市場シェアの獲得を図る戦略です。差別化戦略において重要なのは、単に競合他社と違う製品・サービスであれば良いというのではなく、顧客が認知する価値が向上することにあります。製品やサービスの差別化の主な源泉となる要因には、以下4点が挙げられます。

①製品・サービスの特徴

製品やサービス自体に特徴があることが、最も差別化につながる要因となります。特徴には、機能・性能をはじめ、デザイン、製品ラインナップ、アフターサービスなどが挙げられます。

②立地条件(地理的ロケーション)

小売やサービス業では利便性の高い駅前立地、環境を資源とする飲食業では閑静で眺望の良い環境、秋葉原を一例とする特定業種が集まる立地など、立地条件も差別化戦略の大きな要因のひとつです。

③販売チャネル

日用品や食品などの消費財においては、どこでも購入ができるなど、より生活に身近であることが優位性となる一方、趣向品に近づくほどその希少性が優位性となる場合があります。販売チャネルは、製品・サービスにより慎重な判断を必要とする差別化戦略です。

④ブランド

企業ブランド、事業ブランド、商品ブランド、サービスブランドなど、ブランドとして顧客から信用・信頼を獲得することで、優位性を図ります。ブランド構築は一朝一夕には成り立たず、中長期を見据えた戦略的な施策が不可欠となります。

基本戦略3:集中戦略

集中戦略とは、ニッチ戦略、焦点化戦略、特化型戦略とも呼ばれ、特定の市場セグメントや流通チャネルに集中してコスト低減を図るか、差別化を図るか、もしくはその両方を目指す戦略です。特定市場に集中するため、自社が目標とする売上を獲得できる一定以上の市場規模に対し、自社の強みが発揮できる分野を選択することが重要となってきます。
現在では、「戦略とは集中である」「戦略とは捨てることである」と言われる通り、どの戦略にも集中は不可欠とされているため、集中は事業において大原則だと言えます。

新規参入への対策「競争回避の戦略」

競争回避の戦略は、ファイブ・フォース分析で挙げられる5つの競争環境のうち、新規参入企業の「新規参入の脅威」に対する対策です。マーケティング環境分析(https://www.paddledesign.co.jp/point/post-121.html)でも紹介したファイブ・フォース分析を改めて学ぶとともに、新規参入を防止する阻害要因として、6つの参入障壁を検討していきます。

ファイブ・フォース分析とは

ファイブ・フォース分析(5Forces分析)とは、自社が置かれている競争環境をその特性を左右する5つの要因から分析して理解していきます。そのうえで、自社の強みを活かし、成功可能性や魅力度の高い事業領域を選択していきます。5つの要因には、①競争企業間の敵対関係、②供給企業の交渉力、③買い手の交渉力、という3つの内的要因と、④新規参入業者の脅威、⑤代替品の脅威、の2つの外的要因があり、5つの要因それぞれが自社事業の収益性に大きく影響します。

①競争企業間の敵対関係

事業におけるライバルとの敵対関係、いわば競合他社との競争です。製品、価格、流通、コミュニケーションなど、市場におけるシェア(市場占有率)競争を分析していきます。

②供給企業の交渉力

ブランド力の高い商品や希少価値の高い製品を扱う供給業者は高い交渉力を有し、強気な交渉が可能となります。また、供給業者が寡占化され、市場で高いシェアを占める供給業者も同様です。反面、差別化の難しい製品やコモディティ品を扱う供給業者は企業交渉力が低下します。

③買い手の交渉力

販売力のある販売店(多店舗展開、集客力のある人気店、大型店舗など)は買い手の交渉力が高く、仕入れロットや仕入れ価格など、強気な交渉が可能となります。反面、集客力・販売力に乏しい企業・店舗は、供給業者との企業交渉力が低下します。

④新規参入業者の脅威

異業種からの参入は大きな脅威だと言えます。業界の常識を覆す製品やサービスにより、従来の常識が覆され、業界そのものが大きく変化を強いられる可能性を秘めています。また、新規参入事業者の増加により、競争が激化して行きます。

⑤代替品の脅威

自社既存製品より、市場競争力(高品質、高機能、低価格など)の優れた代替製品が登場すれば、自社既存製品の市場競争力は低下します。代替製品を上回る新製品を投入できなければ、しだいに市場シェアを奪われる恐れがあります。

新規参入を防止する「6つの参入障壁」

参入障壁とは、ある業界に新規参入しようとする企業に対し、参入を妨げる障害のことを指しています。市場に新規参入があることで、市場での競争度合いが高くなり、一般的には業界の収益性が低下すると言われているため、既存企業は、参入障壁を高くすることで新規参入の脅威を阻止しなければなりません。なお、新規参入を防止する阻害要因には、主に以下6つの参入障壁が挙げられます。

●競争回避の戦略1:規模の経済性

大量生産を可能にする大規模設備があると規模の経済が大きく働き、いち製品にかかる平均費用が低下することで、利益率の向上が見込めます。また、製品の低価格化が実現できることから、新規参入企業にとっての大きな参入障壁を築くことができます。

●競争回避の戦略2:差別化戦略

既存企業が市場において認知度の高い製品を持っている分野に新規参入を図る場合、参入企業は莫大な広告宣伝費をかけて製品の認知度向上を図らなければなりません。この場合、既存企業はブランド・ロイヤルティを確立しており、スイッチング・コストにより消費者を囲い込むことで参入障壁を築いていることから、新規参入企業にとっての大きな参入障壁となります。

●競争回避の戦略3:初期投資額

必ずしも成功するとは限らない事業に対しての巨額な初期投資はリスクが高く、大きな参入障壁があると言えます。日本の通信事業大手3社(ドコモ、ソフトバンク、au)に楽天が参入したケースは、初期投資の参入障壁を巨大な資本力で乗り越えた事例であると言えます。

●競争回避の戦略4:流通チャネル

既存企業により、既に流通チャネルが確立されている場合、新規参入企業がその流通チャネルに参加することが困難であるケースや、独自の流通チャネル構築に巨額な投資が必要である場合などは、新規参入企業にとっての大きな参入障壁となります。

●競争回避の戦略5:専門的技術・独占技術(特許など)

業界への参入に専門的技術が必要な場合、または業界における技術が特許などで保護されている場合には、多額のライセンス料が必要となるなど、新規参入企業にとっての大きな参入障壁となります。

競争回避の戦略6:政府や法規制など

事業開始にあたり、免許・許認可・承認・届出などの法的な規制が必要な場合、許可を得るまでの時間やコストが多大なものとなり、新規参入企業にとっての大きな参入障壁となります。電気・都市ガス・水道などのインフラ事業、運輸業、金融業、通信・放送分野などで多く見られます。

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