ブランド価値観の明文化「企業理念とブランドフィロソフィ」
言語化することで、価値観を置換する。
CIからブランドメッセージまで、ブランドの価値観を明文化する「企業理念とブランドフィロソフィ」を伝授します。
ブランド価値観の言語化「企業理念」と「ブランドフィロソフィ」
近年、日本企業にもブランディングの概念が浸透し、ブランドの重要性が認識されてきましたが、日本企業が旧来より掲げてきた「理念」と、ブランディングにおいて定義する「ブランドフィロソフィ(ブランド哲学)」が混在し複雑化してきていると言えます。ブランディングを正しく行うにあたり、それぞれが何を意味するのか、その立ち位置を整理していきます。
日本企業が旧来から掲げてきた「理念」
多くの日本企業で企業理念や経営理念が掲げられおり、経営層が「社員への理念の浸透は必要」だと考える一方、従業員にその意味が伝わっている企業はほんの一握りだと言えます。その原因のひとつは、複雑化した理念体系にあり、すべてが混在することで伝えるべき焦点がボヤけてしまっている企業を多く目にします。ここでは、日本企業が旧来から掲げてきた「理念」を明確に区分け、その役割や意味を整理していきます。
企業理念(Corporate Philosophy)
企業理念とは、主に社外に向けて発信する「企業の存在意義」を明文化したものであり、企業活動の理由や目的、提供価値、そして目指す社会を示したもの。ブランディングにおける「ブランドプロポジション」と近いニュアンスであると言えます。
経営理念(Management Philosophy)
経営理念とは、主に社内に向けて発信する「経営方針」を明文化したものであり、企業が保有する経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報、時間、知的財産)を使用する際の基本的な運営方針を示したもの。そのため、経営者が交代した際には、経営理念も変更となる可能性があります。
社是(Corporate Motto)
社是とは、主に社内に向けて発信する「会社が是とする考え方」を明文化したものであり、会社としてあるべき姿を示したもの。ブランディングにおける「バリュー(ブランドの価値観)」と近いニュアンスであると言えます。
社訓/社員心得(Corporate Motto)
社訓とは、主に社内に向けて発信する「その企業で働く上で心に留めおくことや守るべき行動」を明文化したものであり、社員が大切にすべき精神を示したもの。ブランディングにおける「(従業員が心がける信条や行動指針)」や「バリュー(ブランドの価値観)」と近いニュアンスであると言えます。
行動指針
行動指針とは、主に社内に向けて発信する「行動するための基本指針」を明文化したもので、行動を起こす際、どのようにするかの判断基準としての指標を示したもの。ブランディングにおける「クレド(従業員が心がける信条や行動指針)」や「バリュー(ブランドの価値観)」と近いニュアンスであると言えます。
ブランデイングに不可欠な「ブランドフィロソフィ」
一方、ブランデイングにおけるブランドフィロソフィ(ブランド哲学)は、その役割がかなり明確であると言えますが、その反面、構造的にかなり細分化されており、一つひとつの役割を正しく理解して、定義していく必要があると言えます。ブランディングを正しく行うにあたり、それぞれが何を意味するのか、その立ち位置を整理していきます。
ブランドプロポジション
プロポジションは英訳すると「提案」となりますが、ブランディングにおけるブランドプロポジションでは「ブランド定義」なり、その企業が提供する固有の価値、またはそのブランドが提供できる固有の特徴と消費者のインサイトが互いに共有できる固有の価値となります。企業は、ブランドプロポジションを言語化することで、自社の独自性を明確に定め、ブランドの価値や存在意義の浸透を図ります。
近しいブランディング用語には「バリュープロポジション」があり、ブランドの提供価値、または他社ブランドに真似のできない独自の提供価値を指しています。どちらも同義語と捉えて問題のない表現だと言えます。
ブランドパーソナリティ
ブランドパーソナリティは、ブランドの持つ個性を人格に例えて表現・形容したもので、企業の社風とも重なります。ブランドプロポジション規定時に明確化し、ブランドらしさを定義していきます。ブランドパーソナリティが定まることで企業は、ブランドの軸が定まり、以降のブランド運用や新商品開発の中核を持つことができます。ブランディングにおけるヴィジュアル開発では、ブランドデザインのトーン&マナーの基盤となり、インターナルブランディングにおいては、企業行動や社員行動の指針となります。
また顧客は、自身の嗜好にあったブランドパーソナリティを求めて購買行動を行うことが多いと言われていることから、ブランドパーソナリティの明確化は、顧客の購買行動を後押しするとともに、顧客に良質なブランド体験を提供することで、ブランドを記憶してもらいやすくします。
ブランドパーパス
パーパスは英訳すると「目的・意図」となりますが、ビジネスシーンにおけるパーパスでは「社会的な存在意義」となり、その企業が何のために存在するのか、という企業の最も根幹となる全体の指針を指しています。CSV(Creating Shared Value/共通価値の創造)という概念で語られることもあります。従来の社会貢献活動は、CSR(Corporate Social Responsibility)として、売上の一部を社会貢献に当てるなどで取り組んできましたが、企業の経済価値と社会価値を同時に追求して両立させる、ブランディングの新たな考え方がブランドパーパスです。
ミッション
ミッションは直訳すると「使命、任務」となり、企業におけるミッションは、組織が果たすべき使命、社会に対してどのように貢献するかの社会的役割、自分たちの存在意義などを指しています。なぜその事業を行っているのか、事業を通し、誰にどのような価値提供を行いたいのかを言語化したものであり、事業活動のモチベーション源泉であるとも言えます。
ビジョン
ビジョンは直訳すると「将来の見通し、未来像、構想」となり、企業におけるビジョンは、ミッションを達成した先に想い描く、実現したい未来像を指しています。ミッションは、将来ありたい姿を描いて今すべきこと、ビジョンは、今していることの結果、実現したい未来象を指しているため、ミッションとビジョンは時間軸は違えど、同じ想いの先にある考え方であると言えます。
バリュー
バリューは直訳すると「価値、値打ち」となり、企業におけるバリューは、企業・組織が持つ自社の価値観を指しています。社会に対する約束とも言い換えることができるため、「私たちは顧客に対してこのような対応を約束します」と明言化することで、明確な企業姿勢を発信することができます。ミッション、ビジョン同様に、すべてのステークホルダーに明確な意思を示すバリューはとても重要なメッセージであり、企業ブランディングに不可欠なCI(コーポレート・アイデンティティ)の中核を担います。
ブランドプロミス
ブランドプロミスは、直訳すると「ブランドの約束・保証」となり、ブランドが顧客に対して行う約束です。一般的にブランドプロミスは、ブランドステートメントとして明文化していきます。消費者・顧客が実際にブランドプロミスとして受け取るのは、品質や保証をはじめとする、あらゆるブランド体験であるため、隅々までブランディングを図り、消費者とブランドのタッチポイントのすべてにブランドらしさを浸透させることが大切です。
ブランドコンセプト
コンセプトは英訳すると「概念・発想・思想」となりますが、ブランディングにおけるブランドコンセプトは、「日々果たしていく使命や目的をメッセージ化したもの」を指しており、ブランドの掲げるミッションと通じる部分があります。ブランドコンセプトを掲げることで、すべてのステークホルダーとブランドイメージの共有を図ることができます。
ブランドステートメント
ブランドステートメントは、ブランドのミッション、バリュー、ポジショニング、ブランドプロミスなどを簡潔に表現した文章のこと。ブランドコンセプトが消費者に伝わるよう、メッセージ化した文章とも言えます。ブランドステートメントは、すべてのステークホルダーに正しく容易に伝わるよう簡潔にすることが大切ですが、そのフォーマットに規定はなく、コンパクトに文章化したものから、ロゴやビジュアル規定の細部にまでまとめ数十ページに渡るものまであります。
タグライン(ブランドスローガン)
タグラインは、ブランドステートメントと同様、ブランドを端的に表現したメッセージで、ブランドがどのような価値提供できるのかを伝える重要な役割を担っています。タグラインは通常、ブランド名やロゴに隣接して使用されます。タグラインは、コミュニケーション活動のキャッチコピーとして使用されることもあることから、ブランド浸透に不可欠な要素であると言えます。
《記憶に残るタグライン例》
・おいしさ、そして、いのちへ。(味の素)
・やがて、いのちに変わるもの。(ミツカン)
・お口の恋人(ロッテ)
・うまいすしを、腹一杯。(スシロー)
・水と生きる(サントリー)
・カラダにピース。(カルピス)
・お、ねだん以上。(ニトリ)
・NO MUSIC,NO LIFE.(タワーレコード)
・ココロも満タンに(コスモ石油)
・The Power of Dreams(HONDA/本田技研工業)
・地図に残る仕事。(大成建設)
・まだ、ここにない、出会い。(リクルート)
・ひとりの商人、無数の使命(伊藤忠商事)
ブランドストーリー
ブランドストーリーは、ブランドコンセプトと同様の意味を持つブランドの物語です。ブランドへの思い、ブランドの志、ブランドのこだわりや哲学、ブランドが顧客に与える利益、ブランドと顧客の関係性、ブランドが誕生するまでの過程、ブランドの歴史など、ブランドの価値観を消費者と共有することで、ブランドへの共感を醸成していきます。
ブランドの言語化は、企業ブランディングにおいて必要不可欠な最重要要素であると言えます。最上位概念となる「ブランドプロポジション」や「ブランドパーソナリティ」をはじめ、「ミッション/ビジョン/バリュー」、そして「ブランドコンセプト」、「タグライン」が整うことで、はじめてブランドの価値観を顧客と共有することができます。ブランディングの際は、ブランドフィロソフィとブランドメッセージの役割を正しく理解し、ステークホルダーの共感を生み出すことがブランディング成功への第一歩となります。
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