認知度とブランド価値の相関性
正しく伝え続けることで、ブランド価値は蓄積される。
ブランド価値を左右する「認知度とブランド価値の相関性」を学びます。
認知度はブランド価値に直結するか
認知度が高い企業・商品には一定の信用があり、市場から信頼されているブランドであると言っても過言ではありません。また、ブランドとのタッチポイントが一つでも多くあり、企業・商品を繰り返しアピールできた方が、ブランドにとって価値向上につながると言えます。そして、消費行動を行う際、該当商品の企業名や商品名の認知度が高いほど、消費者は安心して購買行動を行うことができると言えます。
このことから企業は、認知拡大に向け多大な広告コミュニケーション予算を投下し、売上拡大を図りますが、一過性の売上獲得に向けたインパクト重視のキャンペーンや広告コミュニケーションは、中長期的なブランド育成を視野に入れた場合、ブランドにとって取り返しのつかない大きなダメージになる可能性があることを留意しなければなりません。
確かに「認知度=ブランド価値」は正しいと言えますが、広告コミュニケーションにより誤ったブランド認知を与えてしまうと、本来あるべきブランドイメージを取り戻すには、認知度を高める以上の広告コミュニケーションやPR活動が必要となるため注意が必要です。
一貫したブランドコミュニケーションの重要性
ブランドは、認知、興味・関心、消費行動・体験、実感、共有などのプロセスを経て消費者の頭の中でつくられるものであることから、短期間で醸成されるものではなく、一度醸成されたブランドイメージを覆すのは容易ではありません。故に、一過性の売上獲得に向けたインパクト重視のキャンペーンや広告コミュニケーションは、認知の段階から消費者に誤ったブランド認知をもたらし、以降のプロセスに誤ったブランドを記憶させます。このことから、認知の段階から一貫したブランドイメージを持ってコミュニケーションを図ることが重要です。
ブランドは企業活動のすべてによりつくられる
一方、ブランドは広告コミュニケーションだけでつくられるものではなく、企業活動のすべてにおいて醸成されていくものであると言えます。企業姿勢はもちろんのこと、CSRやSDGsへの貢献、従業員の言動、商品の機能・性能、そしてアフターサービスに至るまで、すべてがブランドの一部であり、消費者は包括的なブランド体験を重ねることではじめて価値あるブランドとして記憶していきます。必ずしも大規模な広告コミュニケーションを図らなくとも、ブランドプロポジションに帰結する正しいブランディング活動を積み重ねることで、自社の目指すブランドをつくることができます。
一貫性のあるブランドデザインの重要性
人間の五感による知覚の割合は、視覚だけで8割を超えると言われています。また人は、一度学習したことを1時間後には5割、翌日には7割、1ヶ月後には8割忘れると言われています。このことから、消費者に統一されたブランドイメージを認知してもらうことがどれだけ難しいことかが分かります。だからこそ、一貫性のあるブランドデザインを繰り返し周知し、誤解なくブランドを認知してもらうことが重要であり、蓄積されたブランド像はやがて消費者の頭の中で「記憶しているブランド」となり、消費行動の選択肢のひとつとなっていきます。
認知度向上に向けた主な施策
ブランド価値向上には、認知度向上施策が不可欠であるため、広告やPRをうまく活用することが大切です。一方、広告コミュニケーションは誤ったブランドイメージを与えてしまうとブランド毀損を招く危険性を孕んでいることから、媒体選定やコミュニケーションデザインにも緻密な計画が不可欠です。ここでは、代表的なブランドコミュニケーション施策をカテゴリ毎にご紹介していきます。
マス広告(マスメディア)
マス広告は、マスコミュニケーションを行う媒体(メディア)を指しており、新聞、ラジオ、テレビ、雑誌の4媒体の総称で、マスメディア、4マス広告などと呼ばれる場合もあります。近年、マス広告のデジタル化も進んでおり、新聞や雑誌などのデジタル版も刊行されていることから、マス広告とデジタル広告の境がなくなってきていると言えます。一方、電通の発表した「2021年の日本の広告費」によると、2021年にはインターネット広告費がマス広告の広告費を上回ったとされていることから、インターネット広告は「第5のマスメディア」と言われています。
デジタル広告(インターネット広告)
デジタル広告は、インターネット上で展開させる広告の総称で、オンライン広告、ウェブ広告、インターネット広告などと呼ばれる場合もあります。また、Webサイト、ストリーミングコンテンツなどのオンラインチャネルを通じたマーケティングを指しています。デジタル広告には、テキスト、画像、動画などのメディアフォーマットがあり、ブランド認知度の向上からカスタマーエンゲージメントに至るまで、効果的かつ効率的に広告コミュニケーションを図ることができます。 デジタル広告の主な特徴は、広告に興味・関心を持つ可能性の高いオーディエンスにリーチするための細かなターゲットセグメントができるほか、広告デザインの差し替えや予算の変更なども柔軟に対応できる点にあります。
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングは、消費者に価値あるコンテンツ(情報)を提供することで興味の誘因を図り、ブランド認知度向上や消費行動へとつなげるためのマーケティング手法です。短期的かつ直接的な集客を目的とする広告とは異なり、中長期的な視点でブランドのファンを獲得し、収益化を図ります。 情報が溢れる現代において、マス広告をはじめとした従来までのプッシュ型広告に消費者は嫌悪感すら抱くようになっており、期待する効果を得られなくなっています。これを踏まえ、消費者にとって有益な情報を配信し、消費者が自らのニーズに合わせて情報を取得することでブランド認知度や信頼度を高め、ブランドと消費者の信頼関係関係を構築していく取り組みです。 これは検索エンジン最大手Googleの評価精度が高まり、アルゴリズムの基本となる「良質なコンテンツを上位表示させることが、ユーザー満足度につながる」を実現できるようになってきていることも、コンテンツマーケティングが注目されている要因のひとつだと言えます。
パブリックリレーションズ(PR)
PRは企業活動における戦略コミュニケーションを指しており、直接的な宣伝を行う広告コミュニケーションとは異なり、消費者をはじめとしたステークホルダーと双方向のコミュニケーションを図ることで関係性を構築し、良好な関係性を維持・継続していくためのマネジメントです。
PRのうち消費者への認知度向上施策には、PESO(P:Paid Media(広告)、E:Earned Media(良い評判をもたらす活動)、Shared Media(ソーシャルメディア)、O:Owned Media(自社メディア))があり、これらをバランスよく活用することで、大きな効果を期待することができますが、実施には緻密な戦略と計画が不可欠となります。
一貫性のあるコミュニケーションの重要性
ここまで、認知度とブランド価値の相関性について触れてきましたが、どのような手法であれ、コミュニケーションのすべてがブランドに蓄積されていかなければ意味がないことから、見せ方・見られ方だけでなく、言い方・伝わり方も含め、ブランド表現が正しく統一されていることが重要であると言えます。 ブランドプロポジションに従い、ブランドならではのコミュニケーションを図るには、ブランドを正しく定義し、ブランドのマネジメント基準をブランドガイドラインで明確に定めておくことが大切です。
1.イントロダクション/ブランドガイドライン
①ブランド戦略の基本方針
ブランドガイドラインの冒頭は、ブランドの基本方針となるブランドプロポジションを示し、ブランドらしさとは何かを正しく共有することから始まります。
②ブランドアーキテクチャ(ブランド体系)
グループブランドの場合は関連企業全体を俯瞰した相関図、事業ブランドの場合は商品・サービスがどのような位置付けにあるのかなど、ブランド階層やブランド同士の関係がひと目で分かるよう図解などを行います。
③ブランドポジショニング
自社ブランドが市場においてどのような位置付けであるのかを、4現象のポジショニングマップを用い示します。ブランドガイドラインにブランドポジショニングを明記することで、自社独自性がブレることなく、競合ブランドとの差別化を意識させます。
④ ブランドパーソナリティ
ブランドパーソナリティは、ブランドの持つ個性を人格に例えて表現・形容したもので、企業の社風とも重なります。ブランドパーソナリティをブランドガイドラインに明記することで、以降のブランド運用や新商品開発の中核を共有することができます。
2.バーバル・アイデンティティ(VI)/ブランドガイドライン
①ブランドステートメント
ブランドステートメントは、ブランドの掲げる理念や使命を言語化したもので、パーパス、ミッション、ビジョン、バリュー、そして行動指針(クレド)などが挙げられます。ブランドとしての理想や使命、ブランドらしさを持続するために、ブランドステートメントはブランドガイドラインに不可欠な要素のひとつです。
②ブランドコンセプト
ブランドコンセプトは、「日々果たしていく使命や目的をメッセージ化したもの」を指しており、ブランドの掲げるミッションと通じる部分があります。ブランドコンセプトを掲げることで、すべてのステークホルダーとブランドイメージの共有を図ることができます。
③ブランドストーリー
ブランドストーリーは、ブランドコンセプトと同様の意味を持つブランドの物語です。ブランドへの思い、ブランドの志、ブランドのこだわりや哲学、ブランドが顧客に与える利益、ブランドと顧客の関係性、ブランドが誕生するまでの過程、ブランドの歴史など、ブランドの価値観をすべてのステークホルダーと共有することで、ブランドへの共感を醸成していきます。
④ トーンオブボイス
トーンオブボイスは、ブランドが発する言葉に接したすべての人に、ブランドの印象を残すための語り口調を定義したものです。トーンオブボイスをブランドガイドラインに明記することで、言語から感じるブランドの印象を統一することができます。
3.ビジュアル・アイデンティティ(VI)/ブランドガイドライン
①トーン&マナー
トーン&マナーとは、ブランドスタイルの基本的なルールを定めたもので、ルック&フィールとも呼ばれます。ブランドデザインのトーン&マナーのすべてが戦略的に統一されて初めて、消費者は企業・商品ブランドを直感的に認識できるようになり、顧客はブランドらしさに愛着を持つことができるようになるため、トーン&マナーの策定はブランディングに必要不可欠な取り組みのひとつだと言えます。
②ブランドエレメント
ブランドエレメント(ブランド要素)には、ブランド名、ブランドロゴ、サウンドロゴ、ブランドスローガン、キャラクター、ブランドカラー、パッケージなど様々なものがあり、それらをブランドガイドラインに正しく明記することで、あらゆる制作物を一貫した世界観で展開することが可能となります。
③デザインシステム
デザインシステムには、名刺・封筒などの基本的なコミュニケーションツールのデザインフォーマットから、Webサイトのヘッダー・フッターやカタログデザインのレギュレーション、SNSやその他広告への展開を想定したブランドシンボルの配置規定及び、写真・イラスト・タイプフェイスなど、ブランドの統一された世界観を展開するためのあらゆる規定がされています。ブランドガイドラインにおいて最も細かく規定されるのがデザインシステムであり、企業によっては100ページを超えるボリュームで規定されることもあります。
ブランド運用の鍵はワンチームでの管理体制
ブランド認知度向上に向け、外部へのブランドコミュニケーションを図る際には、依頼主と受託側(広告会社、制作会社、デザイン会社など)がワンチームとなり、ブランドガイドラインをチーム全員に正しく共有するのはもちろんのこと、ブランドコミュニケーション活動の実施後には、次の施策に向けチーム全員で課題を共有し、改善点を議論することが大切です。こうしてPDCAを繰り返し行うことで、都度ブランドプロポジションを確認し、ブランドらしさの伝わるブランドコミュニケーションを図ることが重要です。