経営者の指揮命令が、社員の士気を左右する。

組織学習と組織変革におけるプロセスを学びます。

Introduction

低次学習と高次学習

組織における学習は、既存の価値観や規範など、従来の枠組みの中で継続的に改善を繰り返し行っていく「低次学習(シングルループ学習)」と、既存の価値観から脱却し、既存の枠組みそのものに変化・改善をもたらすような取り組みを行う「高次学習(ダブルループ学習)」の2つのレベルに分類されます。
企業・組織が安定的に成長し、ある程度ルーティンな業務が必要な場合には、低次学習(シングルループ学習)を繰り返し行うことで企業の利益改善に多大な影響を及ぼすことから、日常業務においては常に低次学習を行うことが重要だと言えます。一方、企業・組織が社会環境に適合しなくなることで業績悪化が生じてくると低次学習はあまり効果が見られず、高次学習(ダブルループ学習)を行う必要性が高まります。

●低次学習(シングルループ学習)

低次学習(シングルループ学習)は、既存の枠組みの中で継続的な改善を加えていく組織学習です。手段や方法の改善を主眼とする低次学習(シングルループ学習)は、組織がゆっくりと成長している際に必要とされています。

●高次学習(ダブルループ学習)

高次学習(ダブルループ学習)は、既存の枠組みを超え、組織全体を根本から改善していく組織学習です。従来の行動規範やフレームワークにとらわれず、全く新しい価値観を創造していく高次学習(ダブルループ学習)は、組織が革新的に進化するために必要不可欠とされています。

組織学習に影響を及ぼす主な要因

組織学習にはあらゆる環境が影響を及ぼします。その代表的な要因には「職務範囲と職務内容」、「評価制度」、「権限委譲」、「学習意欲」、そして「外部環境(市場や競合など)」が挙げられます。企業・組織は、必要な組織学習を正しく把握し、環境を整えることで組織学習を進めていく必要があります。

●職務範囲と職務内容

職務範囲が専門的であったり、職務内容が細分化されている場合、日常業務を日々改善していく低次学習(シングルループ学習)が主な組織学習となってきます。低次学習(シングルループ学習)を繰り返し行うことで業務効率を改善し、業績向上を図ります。逆に職務範囲が多角的であり、職務内容が多岐に渡る場合には、職務を俯瞰して把握する必要があることから、組織や事業の課題を見つけやすくなり、高次学習(ダブルループ学習)につながりやすくなります。また、ルーティン要素の強い執行的業務よりも企画的要素の強い職務の方が高次学習(ダブルループ学習)につながりやすいと言えます。

●評価制度

業務フロー遵守を基本とする過程主義は、いかにして業務フローの効率化や改善を図るかを職務の課題に据えることから低次学習(シングルループ学習)につながりやすいと言えます。一方、過程よりも成果を重んじる成果主義は、いかにして成果につなげていくかを、あらゆる角度から検証し熟考する必要性があることから、高次学習(ダブルループ学習)につながりやすいと言えます。このことから、企業が抱える組織課題に応じて評価制度を見直すことで、日常の組織学習をある程度コントロールすることができると考えられます。

●権限委譲

企業・組織において「権限」と「責任」は一対だと考えることができます。これを組織学習に当てはめ考えていくと、権限委譲の有無が組織学習に影響を及ぼすことが分かります。権限委譲が成された組織では、社員が責任を全うするために企業・事業そして業務を俯瞰して捉えるようになり、業務に企画的要素が伴ってくることから、自ら高次学習(ダブルループ学習)を行うようになります。一方、権限委譲が成されていない企業・組織では、 社員は企業・組織全体への責任を伴わないことから、日常業務を過不足なく行うことが職責となり、低次学習(シングルループ学習)が繰り返し行われるようになります。

●学習意欲

業務習熟度が未熟な期間は特に、学習意欲と低次学習(シングルループ学習)に顕著な相関関係が見られると言えます。ある程度業務を習熟し、さらに上のステップを目指す際には低次学習(シングルループ学習)は減少し、高次学習(ダブルループ学習)へと移行していくことになります。社員の成長を促し、企業の成長を図るためには、スキルアップが必要な社員のジョブアップを図るなど、日常業務から高次学習(ダブルループ学習)の必要性を促し、成果を正しく評価する仕組みづくりも不可欠だと言えます。

●外部環境(市場や競合など)

急激に変化する市場や競合がある場合、低次学習(シングルループ学習)よりも高次学習(ダブルループ学習)の必要性が高まります。いかにして外部環境の理解を促し、高次学習(ダブルループ学習)意欲を高めていくかが企業・組織の成長の鍵を握ると言えます。

組織学習と経験学習サイクル

組織学習は、個人の知識や経験が積み重なることで個人のスキルが向上し、個人のスキルが向上することで組織行動に変革が生じ、変革により組織の環境が変わることで再び個人の知識や経験に影響を及ぼす一連のサイクルにより生み出されていきます。また、個人のスキルは、経験学習サイクルを繰り返し行うことで高まります。期待を受け、問題を解決し、障害を乗り越え、期待に応える。というサイクルです。組織行動学者デイビット・コルブにより提唱された「経験学習モデル」では、経験学習サイクルは「経験、省察、概念化、実践」の4つの段階で成立していると定義しています。

組織学習が正しくサイクルしないケース

組織学習は、各学習過程に断絶が起こり、正しくサイクルしないケースが多く発生します。その場合、本来あるべき高次学習が促進されず、低次学習が繰り返し行われます。組織学習が正しくサイクルしないケースは以下の通りです。

①「個人の知識→個人の行動」につながらないケース

組織内ルールなどの遵守が強く求められる場合などに発生します。個人が知識を蓄積し、現状の改善案に気がついても、組織のルールが障害となり行動に起こせない(起こしづらい)ことが原因となります。また、集団疑集性が高まるほど周りとの同調が求められるため、折角蓄積した個人の知識が行動につながりにくくなります。

②「個人の行動→組織の行動」につながらないケース

個人や一部署・一部門の行動が、その上位組織により否決される場合などに発生します。これは、上位組織の持つ慣習が主な原因となります。また、統一された組織ではなく、一部署・一部門ごとに独立採算制をとる組織の場合、組織全体の変革にはつながらず、一部署・一部門の変革に留まるケースも多く見られます。

③「組織の行動→環境の変化」につながらないケース

環境の変化とは無関係に、組織の行動が行われる組織の場合に発生します。組織の行動が環境の変化につながりにくい、または組織の行動とは無関係の要因で環境が変化する組織に多く見られます。そのため、行動の有効性が正しく機能せず、正しい組織学習がなされないことで、一向に変革されないジレンマが生じます。

④「環境の変化→個人の知識」につながらないケース

組織の行動変化によりもたらされた環境変化を個人が適切に吸収できず、結果、個人の知識が上書きされていかない場合に発生します。従来の知識や経験に捉われ、新しい知見を個人が認めないことが原因となります。また、従来の枠組みから外れることなく定型的な情報収集のみを行っている場合、環境の変化に気がつかず、個人の知識として蓄積していかないケースもあります。

企業・組織の変革過程

企業・組織は成長過程において、安定して成長する状況と、危機的な状況の双方が必ず生じると言えます。企業・組織はこうした状況変化に応じ、安定して成長する状況には「漸次的進化過程(低次学習に相当)」、危機的な状況には「革新的変革過程(高次学習に相当)」での対応が求められます。経営者および経営層は、これらの状況に合わせ臨機応変に対応しなければなりません。

●漸次的進化過程(低次学習に相当)

組織の成長過程において、比較的安定して成長している過程に継続して行われる進化プロセスを指しています。一般的には既存の仕組みを活用しながら、業務効率化を図るなど、日常における小さな改善を繰り返し積み重ねていくことなどが該当します。

●革新的変革過程(高次学習に相当)

組織が危機に直面した際、断続した変化を経て別の段階へと移行していく進化プロセスを指しています。外部環境に大きな変化が起こり、組織の再編や戦略の再構築を行うなどが該当します。従来のやり方では組織の存続が危ぶまれるため、抜本的な変革が必要とされます。

組織変革の障壁となる「前例」や「慣習」

組織では、変革を推し進めようとする力と、現状維持の力が同時に働きます。変革を推し進めようとする者は「挑戦」を求め、現状維持を保とうとする者は「安定」を求める傾向があり、安定を求める者は「前例」や「慣習」を判断基準としていきます。現状維持は時として組織の安定につながる一方、組織の足かせになる場合もあるため、組織が危機に直面するなど革新的な変革が必要なケースにおいては、抜本的な意識改革が必要になると言えます。では、組織改革の制約や障害には、どのような要因があるのでしょうか。次に紹介していきます。

組織変革の制約となる要因

組織変革の制約となる要因には、①戦略的近視眼、②情報不足、③必要性の理解(希求水準)、④組織環境、⑤政治的圧力、⑥一貫性の圧力、⑦埋没コスト(サンクコスト)、⑧参入・撤退障壁、⑨ゆでガエル理論、などが挙げられます。ここでは、これら①から⑨を詳しく解説していきます。

①戦略的近視眼

既存事業に基づいた情報収集を行い、既存の枠組みに基づいて情報処理を行っていると、組織変革の必要性を示唆する情報を排除または見逃してしまうことがあります。企業・組織は、市場の変化や競合の脅威に常にさらされていることを念頭に置き、俯瞰的な視点で情報収集・情報処理を行うようにしなければなりません。

②情報不足

組織内で得られる主な情報は、現状の組織に適応した情報が選別され発信されているため、組織変革に不可欠となる市場や競合など外部環境を正しく把握する情報が不足しがちになると言えます。組織変革の際は、情報不足に陥らないよう、外部環境から多くの情報を入手し、必要な情報を正しく社内に発信していく必要があります。

③必要性の理解(希求水準)

企業・組織や個人の希求水準(心理的に標準となる参照点、満足だとみなされる最小限の結果)が低いほど、組織変革の必要性が理解されづらいと言えます。その際、大切なのは企業・組織として共通の目標を設定し、内部への浸透を図ることです。ひとつの目標を正しく共有することで必要性の理解が高まり、組織変革の制約が解消されていきます。

④組織環境

組織環境が複雑であるほど、組織変革と成果の因果関係が直結しづらくなり、組織変革の必要性が理解されづらくなります。また、組織変革への期待も持ちづらくなることから、内部との協力関係を構築しづらくなります。組織変革の際は、変革によりもたらされる効果を明確化し、組織全体の納得・協力を得られるよう、入念な準備を行う必要があります。

⑤政治的圧力

組織改革が行われることで、既得権益が失われるケースが生じるため、利権を失う可能性のある社内外の者から政治的な圧力を受ける可能性があります。組織変革の際は、利己的な政治圧力により変革が頓挫することのないよう、経営者直属のプロジェクトチームを発足し、経営者がプロジェクトを後押しするなどのサポート体制を築く必要があります。

⑥一貫性の圧力

企業・組織には、これまでに培った歴史・伝統・企業文化などがあります。組織変革時には、こうした従来の慣性を守ろうとする圧力が、内部からかかります。また、外部環境である社会からは、行動・発言・態度・信念など、これまでに積み重ねてきた評価の一貫性が求められます。組織改革の際は、現状の姿、理想の姿、そして社会に求められる姿を熟考し、継承すべき要素はしっかりと継承した上で、今後必要な要素を付加するなど、一貫性の伝わる組織変革を行う必要があります。

⑦埋没コスト(サンクコスト)

組織変革は、時に事業の撤退や縮小などが必要になり、大小様々な埋没コストが発生します。この埋没コストが大きければ大きいほど、内部環境からの圧力が強く働きます。組織変革の際は、埋没コストをできる限り具体的に試算し、内部を説得する材料を整える必要があります。

⑧参入・撤退障壁

新規参入や事業撤退時には、財務的な側面や法制度面での障壁が生じることがあります。特に新領域への新規参入には、人・物・資金・情報など、多くの経営資源を有することから大きなリスクが伴い、故に内部からの圧力が強く働きます。また、既存領域の撤退においても、撤退することでのリスクが生じる場合には、慣性が強く働きます。参入・撤退の際は、そこに潜むリスクを明確化し、リスクに対する具体的な対応策をしっかりと準備することが大切です。

⑨ゆでガエル理論

ゆでガエル理論とは、ゆっくりと進行する危機や環境変化に適時対応することの大切さや難しさを戒めるたとえ話の一種で、おもに企業経営やビジネスの文脈で用いられています。カエルを熱湯の中に入れると驚き飛び出しますが、常温の水に入れて徐々に熱していくと、カエルはその温度変化に慣れていき、生命の危機となる温度になったことに気づかないうちに茹で上がって死んでしまうという教訓です。企業・組織の業績低下が緩やかである場合、希求水準もゆっくりと低下していき、いつの間にか変革の機会を失ってしまうことは、企業・組織では決して珍しくありません。このゆでガエル理論が起こらないよう、自社を常に客観視して評価するなど、細心の注意が必要だと言えます。

組織変革のプロセス

企業・組織が永続的に存続し続けるには、環境変化に適応し、企業・組織を戦略的に変革していく必要があり、そのプロセスには、①必要性の認識、②組織変革案の策定、③組織変革の実施、④組織変革後の定着、が挙げられます。①から④を正しく丁寧に遂行していくことではじめて、組織変革の実施が可能になると言えます。

①必要性の認識

現代における市場は、IT/IoT/AIなどのめざましい発展もあり、急激な変化を続けています。企業・組織はそうした市場の変化をいち早く捉え、組織変革の必要性をいち早く認識する必要があります。組織変革は基本トップダウンで迅速に行うことが大切だと言えますが、一方、内部ステークホルダーとの意思統一も不可欠です。経営者は、市場からもたらされる情報を正しく認識すると共に多様な角度から情報を解釈・検証し、適切な経営判断を行っていかなければなりません。
また、多様な解釈を行うためには、企業・組織として活用できるスラック資源(余剰資源)が必要となり、情報に直接アクセスして正誤の判断を適時行うことのできる環境整備も不可欠だと言えます。その他、多様な解釈を行うきっかけとして、内部のコンフリクト(相反する意見、態度、要求などが存在し、互いに譲らずに緊張状態が生じること)が重要な役割を果たすことも多くあることから、対立意見も客観的に捉え検証していく必要があります。

②組織変革案の策定

組織変革の必要性が認識されると、次のステップとして組織変革案の策定が求められます。組織変革を必要とする個人的な意見やアイデアであったものを組織レベルの変革案として企画・公表することで、内部ステークホルダーとの共通認識を図ります。組織変革案の策定に不可欠とされる要因には、次の3点が挙げられています。

◉自律的組織(ティール型組織)
ティール型組織は、メンバーそれぞれが「経営の視点や所感」を持ち行動することに加え、組織化された際にも自立した「個」が有機的なつながりを持つ状態の組織を指しています。このティール型組織を形成する前提条件には、徹底した情報開示と情報共有、相互への努力認知、そしてフィードバックが必要となります。また、感謝に基づく評価軸の策定や、自己実現に向けた金銭報酬、さらには心身の健康維持の最優先の徹底が不可欠です。これらを充分に補完し、業務遂行に要する一定の権限を持つことで、メンバーがより能動的に行動する機会を増やし、「より関わりたい・貢献したい」というモチベーションを高めていくことが、組織変革案策定時の大きな力となります。

◉コミュニケーション
従来の組織慣性から突出した革新的なアイデアは、明文化が容易でないことから暗黙知の了解とすることが多く生じてきます。そうした暗黙知の了解は、多くのコミュニケーションを図ることでより増幅され、次第に新たな共通認識がなされるようになり、結果、組織変革案の策定もスムーズに運ぶようになります。コミュニケーションは誤解が生じないよう、できる限りのフェイスtoフェイスを心がけ、お互いの信頼関係を構築することが大切だと言えます。

◉多様性と冗長性
組織変革案の策定に参画するメンバーは、専門的な知見を持つ各部署のスタッフから選出された多様性(ダイバーシティ)のあるメンバーで構成する必要があります。また、全てのメンバーが、組織全体に関する知識や情報をもれなく共有し冗長性を持つことではじめて、同レベルの判断基準を有することが可能となり、建設的な議論を行うことができるようになります。

③組織変革の実施

組織変革案が策定されると、次はいよいよ実施のステップです。現行組織から新組織への移行段階の組織では、慣性による抵抗、混乱、対立など、様々なコンフリクトが生じやすいため、管理者は特に注意を払う必要があります。移行時には組織変革をマネジメントする専任者や責任者を設け、組織変革チームを編成するなど、組織変革が円滑に行われるよう十分な組織サポートを行う必要があります。また、組織変革チームのサポートは経営者層が行い、職務遂行を十分に支援していかなければなりません。

◉組織変革時に生じる抵抗
変革が生み出す未知への不安や新組織におけるアイデンティティの不適合、さらには既得権益の損失などにより組織変革時には抵抗が生じる可能性があります。組織変革時は、現行組織の問題点の周知徹底を行い、影響を強く受けるメンバーを積極的に参画させるなど、新組織編成に向けた教育・訓練をいち早く繰り返し行う必要があります。

◉組織変革時に生じる混乱
制度変更により業務が流動的になることで、日常業務の管理・統制・実行に混乱が生じる場合があります。組織変革時はいつも以上にメンバー同士のコミュニケーションを図り、迅速な問題解決と以降の支援体制を整える必要があります。

◉組織変化時に生じる対立
変革に伴い既存のパワーバランスに変化が生じることで、社内に対立が生じる可能性があります。組織変革時には、社内の中心となる権力集団との協力体制をいち早く築き、各部署リーダーから上意下達による徹底した指導を行う必要があります。

④組織変革後の定着

組織変革が成された後には、一定以上の時間をかけ組織文化として新体制を定着させていきます。組織変革は一度きりではなく、市場や競合の変化により大なり小なり常に必要となってきます。組織変革が必要となるタイミングを以降も逃さないよう、情報を正しくキャッチできる環境を整備し、将来に備えることが大切です。

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